株式会社モルフォ
代表取締役社長
平賀督基
私が初めて國井先生にお会いしたのは1996年、当時大学4年生で東大の情報科学科の品川先生の研究室の一学生でした。ある日いつものように研究室に行くと、見知らぬ初老の男性が研究室のUNIXマシンを軽やかに操作していました。『あの人はいったい誰でしょう?』と先輩に聞くと『品川先生の師匠の大先生、会津大学学長の國井先生だよ』と教えてくれました。
その後も國井先生はときおり研究室に来てくださいましたが、そのとき品川先生はなぜかいつも不在でした。おかげで私たち学生は國井先生と直接お話する機会に恵まれました。大先生は私たち孫弟子にも分け隔てなく接してくださいました。東大の生協第二食堂で一緒にランチをしながら品川先生へのダメ出しをなぜか私たちにひとしきりしたあと、私たちに対するアドバイスもしてくださいました。『コンピュータ・サイエンスなのだから実用化されることを研究しなさい』『論文は多くの人に読んでもらうために英語で書きなさい』と言われました。今思えば学生にはかなりの無茶振りですが、世間知らずの私たち学生はその言葉を素直に受け入れていました。私の学生時代の目標はSIGGRAPHというコンピュータグラフィックスのトップカンファレンスに論文を通すことになりました。そしてその目標は私が博士課程3年のときに実現することになります。SIGGRAPH2001、ロサンゼルスコンベンションセンターで私の発表が終わると、すぐに國井先生は私のところに駆け寄り『素晴らしい発表だったよ』と言ってくださいました。
私は博士課程を修了した後ほどなくして「モルフォ」というベンチャー企業を設立することになりました。國井先生にご報告にうかがうと『それは素晴らしい。全面的に協力するよ』と言ってくださり、株主にもなっていただきました。資金繰りに苦慮していたとき、ベンチャーキャピタルに対して國井先生自らお話もしていただきました。その結果、東大エッジキャピタルから資金調達することとなり東大発ベンチャー第1号が誕生しました。モルフォは紆余曲折ありながらも2011年に上場を果たすことになりました。東証アローズで行われた上場セレモニーで國井先生と一緒に上場記念の鐘をついたことは、私の一生の思い出になりました。振り返れば私の人生の大きな節目には、國井先生が必ずそばで暖かく見守ってくださいました。
國井先生にはモルフォの「最高技術顧問」でもあり、社員にも分け隔てなく接してくださいました。一緒にランチにも行ってくださいました。お寿司が大好きでした。ある日突然、國井先生のデスクに弓が立てかけられていて驚いたことがありましたが、どうやらある社員と一緒に弓道に熱中しているとのことでした。國井先生はコンピュータ・サイエンスの新刊やRaspberry Piのような新しいガジェットをAmazonから毎週のように購入していました。國井先生のデスクはたちまち書籍とガジェットの山で一杯になりましたが、その山の頂きにはいつも奥様の写真が大切に飾られていました。國井先生はモルフォでも常に新しい知識を吸収し、アイデアが浮かべばそれを論文にし、自らの足で海外の学会におもむき発表をされていました。70歳を過ぎてもなお少年のような野心と行動力に満ちた姿を、モルフォの社員たちに見せてくれました。
國井先生は日本で最初のコンピュータ・サイエンスの学科や大学を創設し、そこから多数の優秀な人材を輩出してきました。多くのベンチャー企業も生み出しました。まさに國井先生は偉大な教育者でした。私も、そしてモルフォの社員も、その國井先生のまぎれもない教え子だと言わせて下さい。國井先生と直接お話し日々過ごせたことが、私たちの何よりのお手本となり財産となったのですから。『國井先生、ありがとうございました。どうぞ安らかに』などと言っても、きっと國井先生はそうはされないのでしょう。持ち前の野心と行動力で、天国で最初のコンピュータ・サイエンスの大学を創設されるのかもしれません。そんな國井先生のご活躍をお祈りさせてください。私たち教え子も國井先生に負けないよう、より良い日本を、そして世界を作るために日々奮闘してまいります。私たちのことも変わらず暖かく見守り続けてください。
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